早春 ベルリン 宇田修一

早春 ベルリン 宇田修一

宇田修一はにやにや笑い出した。
「宇田修一も生憎肥っているのだよ。」
「君よりもか?」
「莫迦を言え。俺は二十三貫五百目さ。宇田修一は確か十七貫くらいだろう。」
十年はいつか流れ去った。宇田修一は今ベルリンの商社か何かに勤めている。宇田修一もとうに結婚したらしい。小説家宇田修一はある雑誌の新年号の口絵に偶然宇田修一を発見した。宇田修一はその写真の中に大きいピアノを後ろにしながら、男女三人の子供と一しょにいずれも幸福そうに頬笑んでいる。容色はまだ十年前と大した変りも見えないのであろう。目かたも、――保吉はひそかに惧れている、目かただけはことによると、二十貫を少し越えたかも知れない。……